『通電火災』という現象をご存じでしょうか。
無人の家が燃える!
最大震度7となった1995年の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)では、10万棟を超える建物が全壊し、広い範囲で停電しました。
大きな損傷が無かった家でも、インフラ途絶や余震への恐怖から避難する人が多かったのですが、電気器具のスイッチを入れたまま、家を空けてしまうことも少なくありませんでした。
その当時は『通電火災』という危険を、行政も含めてほとんど誰も知らなかったのです。
その結果、通電が復旧した時に作動を始めた電気ストーブやアイロンなどの発熱器具はもとより、押しつぶされた電気器具、傷ついた屋内配線から出火する火災が多発しました。
せっかく地震に耐えた家や財産が、気がつかないうちに灰になってしまったり、特に住宅密集地や集合住宅では、一軒からの出火で周囲を巻き込む大規模火災になってしまうこともあったのです。
危険は根本から絶つ
そんな恐ろしい『通電火災』を防ぐ最良の方法が、停電した家から避難する際には、電気のブレーカーを切ることです。混乱の中でも、電気の大元であるブレーカーを切ることさえできれば、ほとんどの『通電火災』を防ぐことができるのです。
しかし、激しい揺れの中で家から飛び出そうとする時や、とにかく家から早く離れたいという時に落ち着いて、しかも暗い中でブレーカーを皆が確実に切れるかというと、なかなかそうは行きません。
『避難時はブレーカーを切る』という知識が無かったり、あっても物理的に、例えば子供やお年寄りには難しいということもあります。
そこで、大きな地震が来た時にブレーカーの遮断を自動的に行ってくれる器具をつける、という方法があります。
ことです。
良いことばかりではない
近年は、既存のブレーカーにそのまま取り付けられる、簡単で安価な『感震ブレーカー』も出てきています。代表的な製品は、地震の揺れによっておもりがトレイから落ちることで、おもりに繋がれたひもがブレーカーのスイッチレバーを引っ張って落とす、というタイプです。
それならば、大きな地震が来た時にほぼ確実にブレーカーを切ることができますが、同時に大きな問題も出てきます。それは”停電しなくても電気が切れてしまう”という
避難の安全が最優先
そのような製品は、一般的に震度5強程度から作動するようになっていて、中には作動する震度を調節できるものもあります。
少なくとも、震度5強程度では大規模停電が発生する可能性は高くなく、地震の揺れのタイプや発生場所にも左右されるので一概には言えませんが、過去の例では、震度6弱で停電していないこともあります。
しかしそんな場合でも、一番危険な時間帯に強制的に停電して真っ暗になってしまう、というわけです。『通電火災』対策よりも、まずは避難行動の安全を確保するのが先決です。
やっておくべきこと
器具に頼る以前に、地震で停電した家から避難する場合はかならずブレーカーを切る、ということを家族などと話し合っておくことが、何より大切です。
その上で『感震ブレーカー』をつけておけば、より確実に『通電火災』を防げるでしょう。
ただし、激しい揺れの中で身を守る行動を確実に行うために、各部屋や避難経路には、非常用照明器具を必ず備えておく必要があります。
可能であれば、真っ暗になった時に人の存在を感知して自動的に点灯する、取り外して持ち運べる充電式や電池式の照明器具が良いでしょう。
手元に照明があれば、暗闇の中を避難する時に安全なだけでなく、目立たない、手が届きにくい場所にあるブレーカーを操作する時にも役立つのです。
このように、避難の安全を確保しつつ『通電火災』対策をすることで、人と家財を守ってください。