防災グッズをいろいろ揃えている方も多いかと思います。でも、それは本当に必要ですか?
“定番”だけで大丈夫?
定番の防災グッズというと、懐中電灯、水、非常食料、手回し充電ラジオ、簡易トイレ、軍手、ろうそくなど、いわゆる非常持ち出しセットの中身のようなものが頭に浮かびやすいもの。
これから用意しようと思われる方も、とりあえずその辺りからとお考えではないでしょうか。
もちろんそのような防災グッズも大切です。でも、それらを使う場面を考えてみてください。ほとんどのものは家を無事に脱出して、避難生活に入ってから役立つものではないでしょうか。
“本当に必要な防災グッズ”とはその前の段階、災害、特に大地震の第一撃から生き延びるためのグッズなのです。
過去の教訓を生かそう
阪神・淡路大震災の被災者が、「まずこれだけは用意しておけ」と強い口調で語るグッズがふたつあります。それは大型のバール(60〜90センチの釘抜き)と自動車用のジャッキ。
あの震災では発災直後に約35,000人が倒壊した建物で生き埋めや閉じこめに遭い、そのうち約27,000人が近隣の方々に救い出されました。すばらしい助け合いの行動です。しかしもしそこに救助器具があったら、さらに多くの方々が救い出せたはずなのです。
大型バールやジャッキがあれば、落ちた梁や倒れた家具を持ち上げて、下敷きになった人を救える可能性が高まるのですが、当時はほとんど備えられていませんでした。
救助器具が無いばかりに、目の前の人を救えない。そんな苦渋の思いが教訓として残されているものの、東日本大震災を経験した今も、あまり一般化しているとは言えません。
自分と家族のためにも
他を救うためだけではありません。大型バールが一本あれば、めちゃめちゃになった部屋から脱出するためにも有効です。てこにして倒れた家具を動かす、薄い壁を壊す、窓ガラスや窓格子を壊す、ゆがんだドアをこじ開けるなど、脱出のためのあらゆる用途に使えます。素手でそれができるでしょうか。
ジャッキは普通自動車用でも1トン、トラック用油圧ジャッキならば5〜15トンも持ち上げられます。落ちた梁などを持ち上げるには、これしかありません。脱出後に車から取り出すこともできますが、できるだけ家の中にも備えておきたいものです。
“定番”にもアレンジを
まず災害の第一撃から生き延びること、それを重視するならば、定番の防災グッズに加えるべきものが見えてきます。
救助活動や脱出のために頑丈な革手袋やゴム手袋、防塵マスクに防塵ゴーグル、両手が自由になるヘッドランプ。閉じこめられた時に救助を呼ぶレスキューホイッスル。外傷の応急処置用に止血パッドなど。ガムテープや養生テープは応用範囲が非常に広いので多めに。荷役用ロープやザイル(20メートル以上)は、瓦礫の移動に役立ちます。
そして見落とされがちなのが雨具。非常持ち出しセットには雨具が無いか、ビニールカッパくらいしか入っていないことがほとんどです。悪天候や寒さの中に放り出されることを考え、しっかりとしたレインコートやポンチョを必ず追加しておきましょう。東日本大震災では寒さと雪の中、低体温症で多くの命が失われました。
まず生き延びること
防災グッズのイメージが避難生活用品に偏りがちなのは、災害から生き延びた人の声しか聞こえてこないからです。しかし本当に聞かなければならない声は、多くの教訓を得ながらも声をあげられない人々、すなわち災害の犠牲になってしまった人々と、目の前の人を助けられなかった人々の声なのです。
実際には聞くことができない声は想像することで、教訓として生かすことが最優先されなければなりません。まず、あなたと家族が災害の第一撃を生き延び、最短時間で安全な場所へ避難するため役立つものこそ、本当に必要な防災グッズなのです。
もしかしたら、目の前で瓦礫に挟まれているのはあなたの家族かもしれません。そして手をこまねいている間にも、津波や火災が迫っているかもしれないのです。